地蔵院聖教の調査

一九九六年一一月二四日より二七日まで萩原寺(香川県三豊郡大野原町萩原)に出張し、同寺所蔵の「地蔵院聖教」の調査を行った。本調査は四国史料調査の一環であり、一九八八年度から継続しており、本年度は第九回目である。萩原寺には、数点の平安時代聖教を初めとして、多数の鎌倉時代〜室町時代前期の真言宗聖教類が残されている。これらの大部分は、三宝院流から派生した六方大事を相伝した萩原寺中興真恵(宝徳元年〈一四四九〉寂)の時代に伝授・蒐集されたものと推定される。
 現在四六の聖教函を確認している(その他に、文書、近世の版経等多数あり)。本年度は、十七函、十九函、二十三函を終了し、二十・二十二・二十四〜二十九函を継続調査した。調査は、一点毎の調査票を作成する方式で行っている。調査済点数は、約二千五百点に達している。聖教の内容は、印信、儀軌、経典など多様であり、真言宗の讃岐・伊予における展開や、六方大事の法流の内容を示す貴重な史料である。ただし、近世・近代の整理の過程で伝授の原形が変形している聖教群があるので、データベースなどによる史料群の復原が課題となっている。
 一一月二五日、同寺において、大野原町文化財保護審議会委員諸氏及び萩原寺檀家総代諸氏に、厚谷が萩原寺聖教調査について説明を行った。前年度に引続き丸山裕美子氏(お茶の水女子大学非常勤講師)・三谷芳幸氏(東京大学大学院)、新たに中村順昭氏(日本大学文理学部)・渋谷啓一氏(香川県教育委員会)に調査に参加していただいた。貴重な聖教の調査を許可された萩原寺住職秋山行徳氏に謝意を表する。
 本調査について萩原寺を紹介してくださり、また毎年の調査にもご参加いただいた、松原秀明氏が一九九七年七月、逝去された。この場をかり、あらためて故松原氏の生前の学恩を謝するとともに、つつしんで哀悼の意を表する。
(石上英一・厚谷和雄・榎原雅治・山口英男・末柄 豊)

『東京大学史料編纂所報』第32号